Story02「燗のなごみ」 それは
日本人の心を揺さぶる文化。

燗銅壺(かんどうこ) by(株)和田厨房道具 千日前道具屋筋商店街

燗銅壺(かんどうこ) by(株)和田厨房道具 千日前道具屋筋商店街

世界を見渡して
みても珍しい
「燗酒」という
日本の伝統。

吐息が白くなる季節。手をこすり合わせつつ、お猪口に注がれた燗酒をグイッと一杯やると体の芯にぽっと温もりが灯り、冷えて縮こまった身がじんわりと緩んでくる。杯を重ねれば、体ばかりか心も次第にほぐれていく。「燗酒は内側から入る風呂」とたとえる人もいる。酒呑みにとって至福のくつろぎの時間だ。吟醸酒がブームとなって以来、日本酒は冷やで飲むのがあたりまえとなった感もあるが、歴史的に見れば、日本人の酒の飲み方は熱燗の方が馴染み深いと言えるだろう。

実は世界の国々を見渡してみると、お湯割りではなく、酒そのものをあたためて飲むという風習は珍しい。このような特異な文化が日本で育まれてきたのは、日本酒が、熱を加えることで香りがほどよく立ち上がり、バランスの良い旨さを発揮する、いわゆる「燗あがり」する性質を備えているからこそ。燗酒は日本酒ならではの恩恵ともいえる飲み方なのだ。温度が変われば、日本酒の味わいは玄妙に変化する。低い温度では甘味が抑えられるため、その分酸味が強く、すっきり切れよく感じられるが、温度が高くなれば甘味や旨みを感じやすくなるため、同じお酒でも丸みや複雑さを帯び、重厚感が出る。私たち日本人は古来より、このような日本酒の性質を知り、料理に合わせてどの温度で愉しむべきかを細かく吟味してきたのだ。

だからひとくちに「熱燗」といっても、温度によってさまざまな呼び名がある。30度くらいなら、日のあたる場所で温もった程度という意味で「日向燗」、35度程度なら「人肌燗」、それより少し温まった40度程度を「ぬる燗」、徳利を持ったときにやや熱さを感じる45度程度を「上燗」、そして徳利から湯気が立つ50度程度のことを「熱燗」と呼び分ける。さらに熱いものは「とびきり燗」だ。このような呼び名の豊富さを見ても、日本人がどれだけ繊細な意識を持って燗酒と付き合ってきたかがわかるだろう。

酒をあたためる
道具が磨かれ、
誰もが燗を美味しく
楽しむように。

燗酒文化の発展を支えたのは、酒を温める道具である。日本では平安時代から燗酒が楽しまれていたが、「季節に関係なく燗酒を飲む」という風習が広まり始めたのは江戸時代。元禄年間(1688〜1704)には、つぎ口と取っ手がついたちろりという筒型容器での燗づけが庶民に広まり、それまでの直火燗から湯燗への移行が進んだ。人々は湯煎でゆっくりと熱を伝えた方が、より旨い酒を楽しめることを発見したのだ。これはやがて、銅や錫など、どのような素材がよりまろやかに燗づけできるかを追求する流れにつながっていく。しかし一方で、燗づけはとにかく手間がかかる。とくに酒の性質や料理に合わせて適度に温度をコントロールし、酒席の進み具合に合わせてちょうどよい頃合いで楽しもうと思えば、つきっきりの燗番が必要となり、酒呑みはなかなか気軽に燗酒を楽しむことができない。

「江戸名所圖會 飛鳥山/歌川広重」味の素食の文化センター所蔵
身分や男女の別を問わず、広く民衆の娯楽だった江戸の花見。その風景に、燗銅壺が描かれていることがある。

そこで江戸後期頃から囲炉裏の余熱を活用した銅壺(どうこ)という道具が現れる。これは囲炉裏端で、飲み手が都合のいいように燗づけしてお酒を楽しめる画期的なアイテムだった。そして、酒席の傍らで燗づけするスタイルがあたりまえになってくると、花見に携える遊山の酒こそ熱燗でいきたいと人々は考えはじめる。やがて銅壺に炭火を詰め込む発想が生まれ、燗銅壺(かんどうこ)という道具が生まれた。燗銅壺は炭を燃やす炉部分と徳利やちろりをつける酒燗部分とに分かれている。内部に満たされた水が炭の熱を受けて湯になり、循環することで、酒をあたためることができる。炭を燃やす炉部分には網を置き、魚や貝などを炙って酒のアテにできるという一石二鳥の品である。

この燗銅壺は、当時の呑んべえたちの間で大流行したと見られ、江戸の錦絵の中にも花見の風景として描かれている。どこにいても思い通りの温度で燗酒が楽しめるという利便性もさることながら、野外であたたかい酒を飲むという粋なスタイルが江戸っ子たちの心を捉えたのではないだろうか。日本の燗酒文化は、温める技術の発展に伴って、ますます盛んになっていったのだ。しかし、このような道具は、後に便利な電化製品の酒燗器などが登場する中で次第に影を潜め、利用する人がいなくなっていった。

失われた
燗酒の良さを
もう一度、
燗銅壺と共に。

道具はより便利になっていったのに、いま、燗酒を楽しむ人が減っているのは、なぜだろうか。一つには、吟醸酒が人気になったことで「いい酒は冷酒で飲む」という認識が強く根付いていったことが挙げられる。しかしこのような定説が出来上がったのは、プレミアムな日本酒の登場だけが原因ではない。その裏側では、大量に燗酒が飲まれるようになった高度成長時代に粗野な燗づけが横行し、「熱燗はまずい」という思い込みが強固になってしまったことも大きな一因である。居酒屋に置かれた電気式の酒燗器は酒を必要以上に高温にしてしまうだけでなく、少量ながら一度冷めた「燗冷まし」が次の酒に混じってしまうため、どうしても風味が損なわれる。また家庭に普及した電子レンジは、一気に加熱するため、日本酒をとがった味にしてしまう。こうして本来日本酒の美点であるはずの燗はその魅力が見失われ、人々の暮らしからやや縁遠いものとなっていったのだ。

燗銅壺の粋なスタイルを、現代の酒席にもう一度取り戻したい。燗酒文化の伝承に、ひときわ強い想いを持つ山中氏。

地域の旨い日本酒だけを扱うこだわりの店、「山中酒の店」の山中氏は、冷酒一辺倒の現状に警鐘を鳴らす。「日本酒は食中酒。料理の美味しさを引き立てて、より味わい深くしてくれる酒なんですよ。そして燗酒は、たとえるなら“ご飯”。食事をしているときは、冷やご飯より、あたたかいご飯を食べるほうが幸せに感じるでしょう。酒もそれと同じ」。もちろん冷酒の良さも否定できないが、日本酒はさまざまな温度帯で味わってこそおもしろい酒なのだ。山中氏は多くの人が気づいていない燗酒の魅力を伝えるため、現代では骨董となっている燗銅壺を入手し、店に置きたいと考えている。「古い道具ですが、よく考えられていますよね。わざわざ炭を使うのは面倒ですが、遠赤外線で料理を美味しく焼き上げられるし、その熱によって自分の席で酒の温度を微妙に調節しながら楽しめるというのはこれ以上ない贅沢だと思います」。

大阪市浪速区にある「山中酒の店」は、全国から取り寄せられた銘酒の販売所であり、隠れ家的飲み屋でもある。
酒を引き立てる料理を。料理を引き立てる酒を。「日本酒は食中酒」という山中氏の店では、マリアージュを堪能できる。
店内には、全国津々浦々の地酒の酒造で丁寧に造られた銘酒が並ぶ。どの一本も、違う個性を持つお薦めの酒。

それはノスタルジックな趣を求めるという楽しみ方ではない。燗の楽しみを追求するためには、この形こそが非常に合理的なのだ。手間を省ける便利な道具があふれる現代だからこそ、パチパチとはぜる炭の音を聞き、お銚子の縁を触りながら燗がつくのをゆっくり待つ時間というのは、より豊かに感じられるのかもしれない。酒をもっと美味しく、粋に飲みたいという先人たちの想いが創り上げてきた燗銅壺は、そんなことを私たちに教えてくれる。

取材ご協力
「山中酒の店」 山中基広さん

「山中酒の店」 山中基広さん

全国およそ140の酒蔵から1000種類以上の日本酒を揃え、左党や飲食店から絶大な信頼を得ている「山中酒の店」の代表取締役社長。日本料理店で3年間修行後、「山鶴」醸造元の中本酒造(奈良・生駒市)で酒造りを1期経験。1970年に創業し、洋酒や焼酎を取り扱った時期もあったが、80年代初頭に日本酒専門に。「日本人に生まれて良かった」と思える酒を提供し続ける。

商品紹介ただいま
商品開発
進行中
Tsunagu Product

燗銅壺ただいま
商品開発
進行中

Kandoko

千日前道具屋筋商店街では
日本酒を愛する先人たちが築き上げてきた燗酒の豊かな文化を今後も守り、
未来につなげていきたいと考え、現代では骨董となってしまった
燗付け道具「燗銅壺」をご協力いただける生産者の方と共に
現代風にアレンジして製作しようとしています。

アウトドアで出かけた先やお花見の席で、アテを炙りながら温かい酒を楽しむのもよし、
人が集まった宴会の趣向として楽しむもよし。
この道具はきっと、燗酒の良さに、もう一度気付かせてくれるはずです。

詳しくは、取扱店 千日前道具屋筋商店街 
(株)和田厨房道具まで

ただいま
商品開発
進行中
この画像は、現在開発中の試作品です。
販売される製品とは仕様が異なります。

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